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我輩はエイである。名前はまだない。名前は長い間呼ばれていないので忘れてしまったのであるが、なにやら薄暗くチャポチャポした中で目覚めたことをかすかに覚えている。 だいぶんと成長したと思う今日この頃、どういうことか我輩は暗いところが好きで、あまり動きまわることを好まない性格と自覚している。近くの連中は我輩の尻尾には不思議と恐れているらしく、なかなか近くに寄ってきてくれないのにも困ったものだ。ま、良いのだ。口に入る魚介類がたまに来てくれさえすれば。 しかし、最近は魚影が減ったように思う。たまに会うヒラメ君もそう言っていたものだ。そろそろ旅に出ようかと思っていたとき、珍しいことに小魚の大群が我輩の頭上を超えていく。我輩は久しぶりに心が躍ったものである。 |
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頭上の魚を睨みつけていると、我輩は底を擦るような音に耳を痛めた。危険を察知したのである。 ボラ君はパタリロ(古いネタだけど)みたいな口から必死に危険を叫んでいるし、久しぶりに会ったスズキ君もかなり動転していた。ただ事ではない、我輩も物音から遠ざかるように移動を開始した。 ま、いざとなれば、尻尾の自慢の毒バリで一撃を与えれば大丈夫だろう、なにしろ人間とやらに刺せば、半年は傷を残すと噂される毒を仕込んでいるのだ。なんてことはないさ、とのんびりと構えていた油断が、一生の最初で最後のミスとなった。 いつの間にか辺り一面から音がする、か、囲まれた!! 我輩は暴れ狂う小魚君たちにも翻弄され、今思うと平静さを失っていた。
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一瞬の出来事だった。人間とやらが現れた瞬間あまりの敵の大きさに唖然としつつも、我輩は小魚と一緒にするなとばかりに抵抗をしてみせた。「エイヤーッ」とばかりに長いムチ条の尾はうねりを上げ自慢の毒バリも宙を舞うのだが、敵は巧みにかわし、そして今までに感じたことない強大な力に押さえ込まれた。 間違ってヒラメ君が乗ってきたときとは比較にならない。あの時は「そんな趣味はないよ」と冗談の一つも言える余裕があった。しかし違う、ついには身動きできない我輩に、突然尻尾部に強烈な痛みが襲った。そう、敵に自慢の毒バリを切り取られた瞬間である。 こうして我輩の戦いは終わった。無駄な抵抗はやめよう、好きにするがいい悪あがきはしない。太古より繁栄してきた一族の末裔、我輩はエイである。
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と、観念したかは定かではないが、いやぁ有明海もこんなに魚がいるのだなぁと関心した。コウイカにスズキ、エイやボラ、そして煮付けがおいしいという“しいのふた”が無数。それにしてもエイがいるとは驚きだった。意外と身近な存在だったのだとまじまじと覗き込んだのだ。 さてさて、地引網から少しそれた話から入ったが、岱明町のここ松原海岸では地引網が体験できる。20名位から申し込み可能ということだが、貧弱な私の感覚を素直に言わせて頂ければ40人ほしい、という感じだ。もっと簡便に言おう、ラクしたいのであれば多い方がいい。かなり網を引くのは重い作業と思う。 いやいや、うちは男女通じて全員マッチョだから心配ご無用、ということであればもちろん意義はない(笑)。 今回会社のイベントとして企画された地引網、これはあじこじ九州にて紹介すべしと誓っての参加となった。
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地引網の体験をさせてくれる漁師さんが、地引網の要領を説明してくれる。今回集まった総勢40名強の引き手を2班(A、B班としよう)に分け、網の片方のロープ部分をまずA班に渡して船に戻り、けっこう沖合いまでぐるりと網を流して反対側のロープがB班へと渡った。さあ、これから引き始めである。 地引網は底地を引くから地引網なのだ。いや、これは当然なことだから敢えて書くまでもないが、ある程度ゆっくり、しかも滑らかに引かないと地を這うように網が動かない。 もしマッチョ軍団が力試しとばかりにグイグイ引いては、網が浮き上がりせっかくの魚は逃げてしまうのでご用心となる。
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しばらくして網も中ほどまで引くと、小魚の姿がちらりほらりと見えてくる。小さいイカの姿もある。参加者のお子様達が楽しそうに魚をつかんではバケツへと運ぶ。サヨリ(とは違うらしい)みたいな魚をつかんで運ぶ姿は一生懸命って感じでしょ。 おお、魚がいるじゃん!と心躍る私も引いていた綱を離し、地域再発見のご紹介ショットとばかりカメラを構える、とすかさず、 「そんなことしよる場合かい、引かぁんか!」と厳しいお言葉があったりして(泣)...(編集注:可哀相に・笑) ま、それだけ地引網はしんどいという表れかな。 いよいよ網が狭まると水に入っての作業も加わる。魚を逃がすまいと漁師さんの声が飛ぶが、そこは素人なかなかうまく伝わらない。一気に魚も寄せ集められていくので、ボラなんかは決死のダイブを試みる。運が良い者は網外へと達していく。
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とはいえ、網内に残った魚は小魚が大半ながら実質みかんコンテナ2杯を軽く超えていたように思う。大漁だろう。 こうして先に書いたように、有明海もいろいろな魚たちがいるものだと関心したのだった。 「おいおい君、有明海を馬鹿にしてはいけないよ」 とご注意を賜りそうなところだ。しかし諫早湾の堤防締切との因果関係は分からないながらも、有明海が海苔不作に海中酸素欠乏、その他諸々環境悪化という不名誉な脚光を浴びている今日、であれば魚影も少ないに違いないと推測してしまうのは至極自然と思う。もっとも以前はもっと捕れていただろうと推測するのも、これまた自然なことと思われるので、これ以上有明海の自然サイクルが狂わないように願うばかりである。
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すぐ近くの砂浜では、マジャコを捕る姿もみられた。表面の砂をスコップや鍬で掘り下げると無数の穴が見えてくる。この穴にマジャコが潜んでいる。各穴に先がふさふさした毛筆を差し込んでは、マジャコがその筆を押し上げてくるのを待つ捕り方はご存知だろう。ご存知でない方のために簡単にご紹介すると、穴に差し込まれた筆をマジャコは 「なんだよ、このフワフワの邪魔な物体は!」 と怒り心頭にどんどんと筆を押し上げる。上から見てるとズズッ、ズズッと筆が持ち上がってくるから楽しいものだ。いよいよ筆先が見えるかというときに、ベテランは指をつかって押し上げているマジャコのハサミを巧みに掴み引っ張り上げる、という具合だ。 これがなかなか難しい、慣れないとハサミにはさまれるという恐怖心も先に立つしね。ま、ケガはしないと思うよ。
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一仕事終えた後のバーベキュー、ビール片手にこれがたまらない。 地引網の場所すぐ近くには松原海岸の公園として緑地化されている広場があるので、地引網で捕れた魚を焼いて食べることもできるバーベキューにはもってこいだ。地引網とセットで企画されてはいかがだろう。近くにある特産品センター「磯の里」に、公園でバーベキューすると一言ご連絡を。来たときより美しくをモットーに無料です。
地引網に興味がある方はまずは連絡してみてください。 連絡先:地引網保存会 代表 植田(TEL 090-7453-8074)
地引網する砂浜は貝殻も多いので、裸足ではケガする恐れがあります。靴の準備は必要です(地下足袋が最高との声もあり)
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